マラソンのための坂道練習とは?目的を知ると走り方が変わる

坂道を走るランナーのイラストと「マラソンのための坂道練習とは?」のタイトル。坂道練習の目的や効率よく走るための考え方を解説したコラムのアイキャッチ画像。

先日、女性ランナーの患者さんからこんな質問を受けました。

「坂道を速く走るにはどうすればいいですか?」

現在のフルマラソンの記録は4時間15分前後、目標はサブ4です。

おっとりして、真面目で、お酒がとてもお好きな方です(^^)

週に一回程度、坂道1km×3本のメニューに取り組んでいるとのことでした。

そこで、ぼくは逆にこう質問しました。

「その練習の目的は何ですか?」

すると、あいまいな答えが返って来ました。

どうやら話をもう少し聞くと、「心肺機能の練習」とのことでした。

もちろん、その考え方も間違いではありません。

ただ、ぼくは少し違う視点で坂道練習というか、ランニングというものを考えています。

練習の意味を考えていますか?

ランナーの方と話していると、よく思うことがあります。

それは、「何をやるか」は知っていても、「なぜやるのか」を知らない人が意外と多いということです。

インターバル走、ペース走、ロング走、坂道練習、ドリル練習。

どれも必要不可欠な練習です。

しかし、その練習の意味を理解しないまま取り組んでしまうと、ただメニューをこなしているだけになってしまいます。

ぼくは、「練習をこなすこと」と「練習を積み重ねること」は別物だと考えています。

特に市民ランナーの場合、限られた時間の中で練習を行わなければなりません。

だからこそ、「なぜこの練習をするのか」を理解することが大切です。

今回の坂道練習も同じです。

坂道練習というと、心肺機能を鍛える練習というイメージを持つ方が多いと思います。

もちろん、その効果もあります。

ただ、ぼくにとって坂道練習は、それだけが目的ではありません。

坂道練習の本当の目的とは?

ぼくは、坂道練習の最大の目的は、「平地を効率よく走るための身体を作ること」だと考えています。

坂道では重力に逆らって前へ進まなければなりません。

すると、自然とお尻(殿筋)やハムストリングス、骨盤周囲、体幹などを使わざるを得なくなります。

全身を連動させながら走る感覚も身につけやすくなります。

つまり、坂道を速く走るための練習ではなく、平地を効率よく走るための練習なのです。

ここで大切なのが、「効率よく走る」という考え方です。

一般的に、ランニングエコノミーとは「同じスピードを、より少ないエネルギー消費で走る能力」と説明されます。

マラソンを走る上で非常に重要な能力です。

ぼくはそのランニングエコノミーを高めるためには、フォームや全身の連動性が欠かせないと考えています。

速く走ることを目指すのではありません。

効率よく走ることを目指すのです。

その結果として速くなっていきます。

フォームは、エネルギーの無駄遣いを減らすためにあります

ぼくは、マラソンを脚力だけのスポーツだとは思っていません。

もちろん脚力も必要です。

しかし、それだけで42.195kmを走り切ることはできません。

マラソンとは、「いかにエネルギーの無駄遣いを減らしながら走り続けられるか」を競うスポーツだと考えています。

フォームというと、「見た目をきれいにするもの」と思われがちですが、そういうことではありません。

フォームは、エネルギーの無駄遣いを減らすために身に付けなければならないものです。

そのためには全身の連動性が必要になります。

これは厳密な力学の話ではなく、日々ランナーの身体を診る中で、ぼく自身が大切にしている考え方ですが、地面から得た力を、脚→股関節→骨盤→体幹→胸椎→肩甲骨→腕という流れで全身に伝えていく感覚が大切だと思っています。

また、胸椎下部(T10〜12)から骨盤にかけての連動性が低下している方をよく見かけます。

腰椎は大きく動く関節ではありませんが、だからといって全く動かなくて良いわけでもありません。

動き過ぎても問題が起こりますし、逆に動かな過ぎても周囲の関節や筋肉に負担が集中します。

ランニングでは、胸椎、腰椎、骨盤、股関節が適切に連動することが重要だと考えています。

この連動性が低下すると、どこか一つの関節や筋肉が頑張り過ぎる状態になり、身体は別の場所で補おうとします。

人の身体はうまくできているので、すぐに走れなくなるわけではありません。

しかし、その小さな代償の積み重ねが、少しずつエネルギーの無駄遣いにつながっていくのだと思っています。

そして、その差は42.195kmという長い距離になると、非常に大きな差となって現れます。

速く走ろうとするのではなく、効率よく走ろう

今回の患者さんには、「坂道を速く走るための練習」ではなく、「平地を効率よく走るための練習」として捉えてみてください、とお伝えしました。

ぼく自身、坂道練習を実施する際は、「何を鍛えたいのか」を意識するようにしています。

一例ですが、坂道の距離によって得られる刺激は変わってきます。

・短距離(50〜150m):神経系への刺激、接地感覚、パワーの向上

・中距離(150〜400m):フォーム習得、全身の連動性、効率よく走る能力の向上

・長距離(500m〜1km):心肺機能、筋持久力、乳酸耐性の向上

もちろん、きれいに区切れるものではありませんし、全てのランナーに当てはまるわけでもありません。

ただ、何を目的にその練習を行うのかを考える一つの目安にはなると思っています。

坂道練習での長い距離を否定しているわけではありません。

目的が違うだけなのです。

もし今取り組んでいる練習があるなら、一度立ち止まって考えてみてください。

「この練習は、何のために行っているのだろう?」

その答えが見つかると、普段のランニングがもっと面白くなりますよ(^^)