厚底か薄底か
厚底シューズが登場してから、もう10年近くになります。
今ではレースだけでなく、普段のジョギングでも厚底シューズを履いている人が多くなりました。
ぼく自身も、現在はほとんど厚底シューズで走っています。
正直に言えば、厚底は楽です。
反発があり、脚が自然に前へ運ばれる感覚があります。
長い距離を走ったときの疲労も抑えやすく、レースでタイムを狙ううえでも大きな武器になります。
では、もう薄底シューズは必要ないのでしょうか。
そのことを今回の記事で書いていきます。
厚底シューズの一番の魅力は「反発」
厚底シューズの一番の魅力は、やはり反発です。
接地したときに生まれたエネルギーを、次の一歩につなげやすくしてくれます。
特にカーボンプレートが入ったシューズでは、その反発を強く感じる人も多いでしょう。
近年の研究でも、カーボンプレートを搭載したシューズによって、ランニングエコノミーが改善する可能性が報告されています。
ランニングエコノミーとは、簡単に言えば、同じ速さで走るために必要なエネルギーをどれだけ少なくできるかということです。
ただし、反発を生み出しているのはカーボンプレートだけではありません。
高反発のフォームやソールの形、シューズ全体の硬さなどが組み合わさることで、厚底シューズの性能が生まれています。
また、カーボンが入っていない厚底シューズでも、フォームの反発によって楽に走れるものはあります。
厚底シューズと一言で言っても、すべて同じではありません。
厚底の反発を活かすには、走る技術も必要です
厚底シューズには反発がある一方で、ソールが高くなることで、接地が不安定になりやすいモデルもあります。
身体が左右にぶれていたり、接地のたびに姿勢が崩れていたりすると、せっかくの反発が前への推進力としてうまく使えません。
初心者が厚底シューズを履いてはいけないという話ではありません。
ただ、シューズが持っている性能をどれだけ活かせるかは、その人の走り方によって変わります。
厚底シューズは走りを助けてくれますが、走る技術そのものを教えてくれるわけではありません。
そのことからぼくは、厚底ばかりではなく、薄底シューズを使う時間も必要だと考えています。
私が薄底シューズを履く目的
ぼくが薄底シューズを使う目的は、薄底で速く走ることではありません。
自分の身体で走る感覚を確認するためです。
厚底シューズでは、シューズ自体が反発を生み出してくれます。
そのため、自分がどのように地面へ力を加え、どのように身体を前へ運んでいるのかが分かりにくくなることがあります。
一方、薄底シューズは厚底のようには助けてくれません。
自分で地面を押せなければ、身体は前へ進みません。
だからこそ、地面を押した力が身体の前進につながっているのか、自分の身体を使って走れているのかが分かりやすいのです。
近年の研究でも、裸足やミニマリストシューズ(基本的な要素のみを備え、ランニング中に自然な感覚で体と足を自由に動かせるランニングシューズのこと)を取り入れた練習によって、接地の仕方が変化する可能性が報告されています。
ぼくは薄底シューズを、走り方を見直すための一つの道具として使っています。
ぼくが考える「走る技術」
ぼくが薄底シューズを履いたときに確認していることがあります。
地面を押した力によって、身体が自然に前へ進んでいるか。
接地した脚の上を、身体がスムーズに通過できているか。
アキレス腱の伸び縮みを、走る力として使えているか。
股関節や骨盤が、無理なく前へ運ばれているか。
こうした身体全体のつながりを確認しています。
アキレス腱だけでなく、ハムストリングスの中でも半腱様筋の働きにも注目しています。
半腱様筋だけが特別に重要だと言いたいわけではありません。
アキレス腱の弾性と、ハムストリングスを含めた身体の後面がうまく協調することが、身体を前へ運ぶうえで大切だと考えているからです。
トップレベルのランナーを見ると、非常に速く走っているにもかかわらず、ふくらはぎが細い人が多いことは皆さんもご存じかと思います。
筋肉の力だけで地面を蹴り続けているのではなく、腱の弾性や身体全体のつながりを効率よく使っているからです。
薄底で覚えた感覚を、厚底で活かす
ぼくが薄底シューズを今も使い続けている一番の理由は、薄底で確認した感覚が、厚底シューズを履いたときにも活きると感じているからです。
薄底シューズでドリル練習(走りを構成する一つひとつの動作を分解し、姿勢・接地・腕振り・脚の動き・地面への力の伝え方などを丁寧に確認するための練習)を行い、自分の身体で地面を押す感覚を確認します。
そのあと厚底シューズへ履き替えると、驚くほど走りやすく感じます。
アキレス腱を使う感覚も、地面を押す感覚も、股関節が前へ運ばれる感覚も、厚底シューズだけで走っていたときより分かりやすくなります。
薄底で身につけた走る技術を、厚底シューズの反発がさらに助けてくれるような感覚です。
厚底シューズが走り方をつくってくれるのではなく、自分が持っている走る技術を増幅してくれるのを感じれるようになります。
ぼくが行っているのは、リディアード式のバウンディング
ぼくが薄底シューズで取り組んでいるドリル練習は、アーサー・リディアードが行っているものです。
このトレーニングは負荷の軽い運動ではありません。
薄底シューズを履いたことがない人が、いきなりこのドリル練習を行うことはおすすめしません。
アキレス腱やふくらはぎ、足部などに普段とは違う負荷がかかります。
最初は短い距離、少ない回数から始め、翌日以降に張りや痛みが残らないかを確認しながら進める必要があります。
走力や身体の状態によっては、薄底シューズで軽いランニングから始めた方がよい場合もあります。
まずは週1回、短時間から
薄底シューズを使うからといって、普段のジョギングをすべて薄底に変える必要はありません。
いきなり5km、10kmと走る必要もありません。
ぼくがおすすめするなら、まずは週に1回程度、短時間のドリルからです。
普段の練習を大きく変えずに、走る感覚を確認する時間をつくる程度で十分です。
慣れてきたら、短いジョギングに取り入れてもよいでしょう。
ただし、薄底シューズを履くこと自体が目的になってはいけません。
何を感じ、何を身につけるために履くのか。
そこが一番大切です。
厚底か薄底かではなく、どう使うか
ぼくは厚底シューズを否定しているわけではありません。
現在も普段のジョギングやレースでは、ほとんど厚底シューズを履いています。
反発があり、楽に走れ、レースでのパフォーマンスも高めてくれる。
これほど優れた道具を使わない理由はありません。
それでも、薄底シューズを完全には手放しません。
自分の身体で走る感覚を忘れたくないからです。
薄底シューズで走る技術を確認し、その技術を厚底シューズで活かすのです。
「厚底か薄底か」
どちらが優れているかを決める必要はありません。
大切なのは、それぞれを何のために使うのかです。
厚底シューズの性能を最大限に活かしたいのであれば、ときどきシューズの助けが少ない状態で、自分の走りを確認する時間をつくってみてください。
その感覚が、厚底シューズを履いたときの走りを変えてくれるかもしれません。
※この記事には、研究で報告されている内容に加えて、ぼく自身のランニング経験や、ランナーの身体を見てきた中での考えが含まれています。
参考にした主な研究・文献
- Kobayashi EN, et al. “Metabolic effects of carbon-plated running shoes: a systematic review and meta-analysis.” Frontiers in Sports and Active Living. 2026.
- Giachetti Martin S, et al. “Carbon plates in running shoes biomechanics: a systematic review and meta-analysis.” Frontiers in Sports and Active Living. 2026.
- DesRochers J, et al. “Effect of gait retraining in minimalist footwear or barefoot on running footstrike and cadence: a systematic review.” Research in Sports Medicine. 2025.

