長距離を走る人の股関節が痛い原因を考える〜パート3、ランナーの股関節痛へのアプローチ〜

3回に分けて描き進めて参りましたが、今回で終わりです。 長くなりましたが、今回の記事を書く上でどうしても必要だったので書いてきました。 長距離を走る人やスポーツをされてる方で股関節を痛めてる人は結構多いです。 しかし、治し方がわからず結局放置してしまい、そして悪化してスポーツを諦めてしまう方が本当に多いです。 これらの記事が少しでも何らかの参考になれば幸いです。

今回は陸上をされている大学生患者さん(Yさん)の内容です。 大学で陸上(長距離)をされてますが、股関節の付け根の痛みで走れない日々が続いているようです。 概要を書きます。

目次

患者Yさんの概要

大学2年生の女性。
左右の股関節付け根に痛みが交互に出る。
家族歴なし。
先天的素因なし。
中学から陸上を始め、高校でも陸上部。
専門は長距離。
ベストは3000m9分30秒。
高校三年生の頃から股関節付け根に痛みが出始め、まともに練習が出来ない日々が続いている。
大学でも長距離(5000m)を選択したが股関節の痛みでまともに走れず今日に至る。
まだ5000mのタイムを測ることも出来ないくらい痛みで悩まされている。
走ってる途中で痛み出し走ることが出来なくなる。

Yさんの身体はどうなってる?

股関節の付け根に問題を抱えてる陸上選手は非常に多いです。
特に長距離をしている選手に多いことが特徴的です。
(全てのスポーツで股関節痛に悩まされている選手は多いです。)
股関節は球関節となっているため可動域が広く、力の大きい筋肉と小さい筋肉が入り混じっています。
また、股関節は振り子のように使う特徴もあるため、自分が思ってる以上に可動してしまうことがあります。
自分が思ってる以上に股関節が可動してしまった際、その動きに筋肉が耐えられなくなり痛めたりします。
また、大小様々な筋肉が混在するため筋肉の付け方のバランスが非常に難しく、ケアも難しいです。


Yさんは現在走る練習が出来ない状態です。
治ったと思って練習をしても2、3日後には反対の股関節に痛みが出たり、元の股関節に痛みが出たりするそうです。
走る練習が出来ないので、筋トレ・エアロバイク・水泳などのリハビリをされています。
筋肉の一番の特徴は右太もも前側が異常に発達していました。
エアロバイクでの漕ぎ方が悪かったようです。
聞いてみると、漕ぐ際右で踏み込むことが多いそうです。
踏み込んで漕ぐと大腿四頭筋(太ももの前側)を使ってしまい、その部位が発達します。

長距離で大事な筋肉は太ももの裏側と臀部です。
もちろんその他の筋肉も大事ですが、この二つの筋肉が走る際、最も使われる筋肉です。
大腿前部の筋肉は太ももを上げる際、必要になる筋肉です。
大腿を上げるとそれだけストライドが伸び一歩一歩の距離が伸びます。
(大腿四頭筋だけでなく、腸腰筋という腰から股関節前部に付く筋肉も脚を上げる際重要な筋肉です。)
しかし、太ももを上げ過ぎると筋肉を無駄に酸素を使ってしまうので、その加減が難しいところです。

注意点として、決してストライドを伸ばせば良いという単純な話ではありません。
歩幅が広くなるとそれだけ筋肉や関節(特に腰)への負担が強くなります。
ストライドを伸ばす前にやるべきトレーニングがあるので、一般ランナーはストライドよりピッチを上げて走ることをしましょう。

Yさんの股関節痛の原因

Yさんの主訴である「股関節付け根の痛み」は内転筋の問題が多いです。
当院にも半数以上の方が付け根の問題で来院されます。
付け根の痛みに関しては内転筋を適切にほぐし、適切にリハビリすることで痛みが激減します。
この「適切」ということが何より大事です。

それではYさんがなぜ股関節の付け根に痛みが出たのかを解説していきます。
内転筋を触るとそこまで強い張りやコリはありませんでした。
もちろん全くないわけではないのですが、慢性的に付け根に痛みが出るとは考えにくかったです。
主因は腹筋の縮みと腰周辺の筋肉の弱りだと感じました。
高校三年生からまともに練習が出来ない日々が続いているため、本人も気付かないうちに筋肉が落ちたと考えられます。
その事実に気付かないまま以前通りの練習を再開してしまい、その負荷に身体がついていかず以前から痛めている股関節付け根に痛みが出ると考えました。
腹筋と腰回りの筋肉はいわゆる「体幹」です。
体幹は着地の際、身体がブレないようにすることと、衝撃を緩和してくれる役目を持っています。
Yさんは座るとすぐ猫背になっていました。
猫背は体幹が弱い方がなりやすい姿勢です。
Yさんも話していましたが、走ってる途中で痛みが出るということもヒントになります。
股関節を痛めると少し動かしただけでも痛みが出ます。
Yさんの場合、様々な動きや負荷をかけたりして股関節の状態を確認しましたが痛みは出ませんでした。
これが何を意味するかと言いますと、フォームが悪くて股関節の付け根に痛みが生じていたのです。
普段のリハビリを自己流でしているようでした。
また、コーチもリハビリのアドバイスしているようですが、コーチは「走る」専門家です。
一般の人よりは身体のことも知ってるでしょうが、それでも治療となると限界があります。

少し話がそれますが、Yさんから聞いた話を書きます。
部活内で疲労骨折をしている人がかなり多いそうです。
疲労骨折に関して、前回詳しく書いた記事があるのでそちらを載せます。

あわせて読みたい
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長い記事ですが、頑張って書いたので是非ご覧ください!

Yさんは今後どうすれば良いか?

話を元に戻します。
Yさんの股関節付け根の痛みの原因はわかったと思います。
では、今後どのように治療を進めていけば良いのかを書きます。
基本中の基本ですが、まずはしっかり治すことです。
高校3年生から大学2年生になっても治っていないのであれば一度しっかり治すことを真剣に考えなければなりません。
期間がどれだけかかるかはわかりません。
僕の予想では2ヶ月あれば痛みがほぼ無い状態になると考えます。
施術をするだけでなく、股関節付け根のリハビリをする必要があります。
リハビリというよりトレーニングと言った方が正しいかもしれません。
正確に鍛えたい部位を鍛え、尚且つ縮んでる筋肉を伸ばしながら鍛えます。
筋トレだけでなく、フォームの矯正をする必要もあるはずです。
自分が思ってるフォームで走っているかどうかを動画などで確認します。
ドリルなどで一つ一つの動作確認を行い、適切な動きと筋肉をつけていきます。
ジョグスピードもかなり抑えて頂きます。
3000mを9:30ものスピードを持っているのであれば、普段のジョグスピードは4:30/kmくらいと考えられます。
それを6:00/km以下のジョグスピードにします。
状態によっては7:00/kmくらいになるかもしれませんが、それは状態を見ながらになります。
一歩一歩意識すべき部位を確認しながら走ります。
ダラダラ走ることだけは避けなければなりません。
腰が落ちないように、腕の振りや足の出方・着地など細かく走ることを考えながら走ります。

本格的練習再開への道のり

Yさんはエアロバイクを漕いでいて、右太ももの前側をよく使って漕いでいた為そこの筋肉が発達していると書きました。
太ももの前側が発達したことで、右太ももを上げて走り過ぎていることが考えられます。

この左右の筋肉のアンバランスが、どこかに歪みとして現れて股関節痛を引き起こしている可能性があります。
まずはフォームを見直し、自分の身体をなるべく左右均等にする必要があります。
そして少しずつ距離を伸ばしていき、一日20kmほど走れるようになったら次のフェーズに移行します。

これまではほぼリハビリの練習内容でしたが、走る衝撃を吸収出来る身体作りをしていきます。
坂道でのドリルを行い、正確にフォームを作り直します。
坂道で練習することで、走りながら筋肉がつきます。
この練習をしながら補助的に不足している部分の筋肉を、重りを使って鍛えたりもします。
フォームと筋肉がしっかりしてきたら最後のフェーズに移行します。

最後のフェーズでスピードを戻す為にスピードトレーニングをします。
スピード練習の内容は人それぞれなのでここでは書きません。

この三つの順番をしっかり守ることで完全復帰が見えてきます。
痛み自体は最初の練習の時点で無くなりますが、二番目のフェーズを飛び越えてスピード練習をして怪我を再発する人が多いです。
もしくは、最初のフェーズを通り越していきなりスピード練習をする人もいます。
決して焦らず、少しずつ前に進みましょう。

この治療の順番は遠回りのような気がするかもしれません。
しかし、治すには通らなければならない道です。
Yさんも2年近く痛みが引かず、まともに走ることが出来ていないストレスに比べたらなんてことないでしょう。
いち早く競技に戻るためにも「急がば回れ」で治療に専念しましょう( ^ω^ )

終わりに

いかがでしたでしょうか?
貧血から始まり、疲労骨折に次いで、今回の股関節痛で苦しむ大学生の話でした。
股関節痛を語るには、骨のことをしっかり勉強しないといけませんし、骨のことを語るには、血液にまつわることを勉強しないといけません。
いや〜、勉強って面白いですね(^^)
これからも股関節痛にまつわることを紹介していくので、是非ご覧くださいねぇ(^o^)/

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